第66回日本観光ポスターコンクール
総務大臣賞及びオンライン投票(第2位)を受賞

この度、香美町が作成した観光ポスターを日本最大の観光ポスターコンクールである『第66回日本観光ポスターコンクール』へ出展した結果、総務大臣賞及びオンライン投票(第2位)を受賞しました。

第66回日本観光ポスターコンクール結果発表はこちら
→ https://www.kankou-poster.com/66vote_result.html

香美町を応援いただいた皆様、本当にありがとうございました。
今回作成した観光ポスターは、「ストーリーのあるまち」を製作コンセプトに、都市部で働き、日々の生活に少し疲れた女性をターゲットに設定し、香美町に来て癒されませんかというメッセージを込めた作品です。

直木賞作家である角田光代さんにエッセイ執筆をお願いし、情感溢れるポスターに仕上がりました。
エッセイも含めてご紹介させていただきますので、是非ご覧ください。

※画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

今、このとき、ここに立つための旅だったのか

香美町観光ポスター


今、このとき、ここに立つための旅だったのか

旅には偶然が満ちている。
昨日ではなく今日、出発したから、会えた人がいる。
その駅ではなく、この駅で降りたから、見つけた景色がある。
そんなちいさな偶然が重なって、あるとき完璧を作り出すことがある。
この季節、この天候の空の色。この時間、海の向こうに帰る太陽。
さっと空が色を変える。つられて海もあかね色になる。
私の前で時間が静止する。
すべて今日、この一瞬だけに起こること。今日だから出会えたこと。
私が見ているのは、日常ではなくて、たんなる光景でもなくて、
旅の偶然が作り上げた「完璧」だ。
私がここを、今日、旅することで完結した、完璧そのもの。(日本の夕陽百選「香住海岸の夕陽」)

きれいなんて言葉はぜんぜん足りない

香美町観光ポスター


きれいなんて言葉はぜんぜん足りない

落ち込んでいるときに救ってもらったことは幾度もある。
親しい友人の言葉に、大好きなミュージシャンの歌に。
美術館で向き合った一枚の絵に、逃げるように開いた本の一ページに。
それらと同じく、光景も人を救う。
私の持っている言葉、ぜんぶを点検しても、
見合う言葉が見当たらないくらい、うつくしい光景。
うつくしいなんて言葉すら、嘘っぽく思える光景。
それらはときとして、驚くほどの威力で、人を救う。
言葉を忘れて見入るだけの私を、救ってくれる。
それだけの強さを、この光景は持っている。(日本の棚田百選「うへ山棚田」)

千年のときが私のなかで流れはじめる

香美町観光ポスター


千年のときが私のなかで流れはじめる

まるで木のふりをした壁みたい。それほどに大きな木である。
この木には、千年の時間が詰まっている。
木と向かい合って、ゆっくりと、息を吸って、吐く。
私のなかに千年が流れこむ。
千年前も、たしかにこうして風が吹き、鳥が鳴き、
葉のあいだから日射しが落ちて、澄んだ水が流れていた。
千年の先に私がいる。そのことがちっとも不思議ではなくなる。
今日、私がここに立つことも、
きっと千年前から決まっていたこと。
やっときたね、とささやく声が聞こえた気がした。(たじま高原植物園「和池の大カツラ」)

何ひとつな くしたものなどないんだ

香美町観光ポスター


何ひとつなくしたものなどないんだ

なくしたものは、たくさんある。
ミニカー。色鉛筆の深緑。好きな人からもらった手紙。
大人になってもなくし続ける。
旅に持っていったカメラ。電車の網棚にのせた花束。
いっしょに暮らした犬のシロ。あの人を好きだった気持ち。
なくすことなんてぜったいにないと信じていても、
いなくなってしまう人もいる。失ってしまう関係もある。
そこにいけばなくしたものが返ってくる、というかえる島伝説を、
本気で信じているわけではないけれど、
でも、夜空を埋める星を見ていたら、思った。
私のなくしたものすべて、いなくなっただれか、ぜんぶぜんぶ、
こうしてちいさな光となって、今、私を見守っているのではないかって。

(今子浦海岸「かえる島」)

この海も この青さも 私だけのもの

香美町観光ポスター


この海もこの青さも私だけのもの

歩きなれたいつもの道で、ふと旅先で見た光景が目の前によみがえる。
青という言葉よりずっと青い海、それを覆う広大な空。
これ、どこだったっけな、と考えながらも、
なんてきれいなんだろうと、心に浮かぶ光景に見入ってしまう。
そうだそうだ、あのときの旅の、あの場所だ。
思い出して、ほっとして、それから思う。
今日、海はどのくらい青いだろう。空はどのくらい高いだろう。
親しい人を思うように、あの場所を思っている。
旅することで、出会うことで、場所とも友だちになれるのだ。

(「鎧漁港」)


故郷ではないでもここは心が帰る場所

ずっと耳に残る音楽が、どこから生まれてきたのか。
一度見ただけで目に焼きつく絵画が、どうして描かれたのか。
胸に深く染み入るその文章が、どんなふうに書かれたのか。
何かに大きく心を動かされたとき、人は、それを残したくなるのだろう。
楽譜や絵の具で、世界にとどめておきたくなるのだ。
うつくしいと感じた光景を、ではなくて、
うつくしいと感じて震えた、自分の心を。
私に音楽は作れない。絵も描けない。文章も、なかなかむずかしい。
だから私は旅をする。心を動かすものに出会うために。
心を震わせ続けるために。

(「東垣の田園風景」)

このおみやげは旅行鞄には入らないけど

香美町観光ポスター


このおみやげは旅行鞄には入らないけど

旅に出るのに、持っていくものは、できるだけ少ないほうがいい。
荷物が軽ければ、どこへいくにも気が楽だし、
手元になくて本当に困るものは、そうは多くない。
心にも、おんなじように、たくさん詰めこまないほうがいい。
心配とか不安とか、昨日の悩みなんかは、
持っていってもどうにかなるものでもないから。
荷物が少なければ、心に余裕があれば、そのぶんだけ、
多くのものを持ち帰ることができる、とこの町が教えてくれた。
たとえばどこまでも続く緑の田んぼとか。
びしりと整列する、うつくしい瓦屋根とか。

(「余部橋梁下に広がる黒瓦の町並み」)


エッセイ執筆者
 角田光代さん略歴
1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年「対岸の彼女」で直木賞受賞。これまでに様々な文学賞を受賞、多くの作品が映画化されている。
映画化された「八日目の蝉(井上真央主演)」、「紙の月(宮沢りえ主演)」は大ヒットを記録し、日本アカデミー賞を受賞している。

 

 

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